クルド文学(クルドぶんがく、クルド語: وێژەی کوردی)はクルド人による文芸作品や文学研究を指す。クルディスタンと呼ばれる地域をはじめとして、世界各地のクルド人によって創作されている。
クルド人が住むクルディスタンは、古くから各国の領土として分割されてきた歴史があり、クルド語の他に各地の言語の影響を受けている。そのためペルシア語、トルコ語、アラビア語などで作品が執筆されており、近年は英語をはじめとする欧米の言語による発表も増えている。作品のテーマとしては、口承文芸の伝統、迫害と抵抗、民族のアイデンティティ、移民や難民、クルド社会の問題やジェンダーなどがある。
歴史
クルド語は20世紀にいたるまでは文字の記録が少なく、クルドの起源は確定できていない。クルド人の起源をイラン北部のメディア王国とする説や、クセノフォンの『アナバシス』に書かれた山岳民族のがクルド人にあたるとする説がある。アラビア語の文献によれば、7世紀にはイラク北部やイラン北西部の山岳地帯にクルドと呼ばれる集団がいたことが分かっている。イブン・サアドの『伝記集成』、アラブ人ムスリムの征服を書いたバラーズリーの『諸国征服史』(9世紀)や伝記集『名士たちの系譜』、イブン・フルダーズベの『』などにクルドに関する記述がある。
13世紀頃にはイラン西部でクルド人が多数暮らす地域をクルディスタンと呼ぶようになり、14世紀頃にはアナトリア東部でクルド系の領主が統治する地域もクルディスタンと呼ばれるようになった。16世紀に入ると両地域を含めてクルディスタンと呼ばれ、現在の地理概念のもとになった。16世紀にはクルド人によるクルドの歴史書として『(シャラフの書)』が書かれた。
トルコ
トルコ革命の時期からトルコ・クルド紛争が起き、トルコ共和国の建国をへて紛争は現在も続いている。デルスィムではクルド人による(1937年 - 1938年)が起き、トルコ政府による虐殺と同化政策が行われた。トルコではクルド人の存在は公的に認められず、「山岳トルコ人」と呼ばれた。公的な場所でのクルド語の使用やクルド語での出版や放送が禁止され、1980年のトルコ軍による9月12日クーデターを頂点として、クルド語書籍の没収や焚書、クルド語地名のトルコ語への変更も行われた。1989年にトゥルグト・オザル大統領が国内にクルド人が暮らしていることを認め、自身もクルド人の血筋であると公言した。トルコ政府は1991年の言語法で公共の場でのクルド語の使用と出版を認めた。
イラク、シリア
イラン・イラク戦争末期の1988年にはイラク軍がクルド自治区のハラブジャを化学兵器で攻撃し、5000人以上が死亡するハラブジャ事件と呼ばれる虐殺も起きた。シリアやイラクではISILがクルディスタンに侵攻し、クルドの軍事組織ペシュメルガはISILとの戦闘で勝利した。アメリカは戦闘においてクルド人への支援も行った。こうした紛争もクルド人の作者に描かれている。
イラン
レザー・パフラヴィー時代のイランにおけるクルド文学の活動は、秘密のグループを作ってクルド語や作品を共有することだった。イギリス委任統治領でクルド語の出版が可能だった隣国のイラクから出版物を運び、グループで読み合った。このグループから(コマラ)が結成され、コマラから(HDKA)へと発展して、クルド人の共和国であるマハーバード共和国の建国が実現する。しかし共和国を支援していたソヴィエト連邦の撤退によって共和国は崩壊した。
ヨーロッパ
クルド人にとって、1960年代以降はヨーロッパがクルド語やクルド文化に触れる重要な地域となった。スウェーデンは1970年代以降に政治難民や戦争難民のクルド人を受け入れ、トルコからは1980年の軍事クーデターを逃れた多数の知識人がスウェーデンに移住した。この影響で、スウェーデンではクルド語の出版が盛んになった(#出版、図書館、文学賞も参照)。フランスでは1983年にが設立され、クルド語教育や情報センター的な役割を担った。
言語、地理
クルド人が暮らす地域は歴史的にクルディスタンと呼ばれ、チグリス川・ユーフラテス川の中流から上流を中心とする。地理的にはトルコ、イラク、シリア、イランの国境線が交わっており、4カ国の領地として分断支配されている。クルド人は2500万人から3000万人がおり、中東の民族としてはアラブ人、ペルシア人、トルコ人に次ぐ人口だが、歴史的に宗主国から迫害を受けており独立国家がない状態に置かれている。
クルド語はイラン語派の西イラン語群に属する言語で、同じく西イラン語のペルシア語の影響が強い。クルド語の話者は約2500万人と推定されており、分布地域はクルディスタンを中心にアルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、ホラーサーン北部に及んでいる。クルド語は音声や文法の統一がなされていないために方言の差が大きく、異なる方言話者の相互理解可能性は低い。北部方言のクルマンジーはトルコ東部、シリア北東部、イラク北部が中心となり、中央方言のソラニーはイラク北東部から小ザブ川周辺、イランのコルデスターン州が中心で、南部方言はイランのケルマーンシャー州を中心としている。
文字の体系は方言によって異なり、クルマンジーは主にラテン文字、ソラニーはアラビア文字で表記される。クルマンジーの文字を考案したのは、の息子だった。ジェラーデトはシリアでクルドの文化活動を進め、クルド語のアルファベットをラテン文字表記で考案し、文法書も発行した。
クルド語の状況は国や地域によって異なり、トルコではクルド語の使用が禁止されていたが、2013年に公的な使用が認められた。イランではクルド語の使用が認められており、2015年にでイラン初のクルド語・クルド文学部が設立された。イランではクルド語をペルシャ語の方言として位置づけることで、クルド人の独立運動を抑えている。
作品の形式
詩歌、口承文芸
クルドの口承文芸として、という吟遊詩人がいる。クルド語でデングは「声」、べジュは「歌う、伝える、語る」を意味している。内容には英雄譚、人間模様、情感などがあり、クルド語でストランと呼ばれる歌を歌う。クルディスタンの都市ディヤルバクルとヴァンには「デングベシュの家」と呼ばれるサロンがある。トルコでは1930年代以降の民族主義の中で民謡収集が行われ、トルコ語ではなかった詩歌もトルコ語化された。このためクルドやアルメニアの民謡もトルコ民謡としてトルコ語で記録された。1960年代にはクルド民謡がトルコ民謡として国営放送で流された。クルド人音楽家のはクルド語の歌を唄ったために亡命することとなった。クルド人歌手のは1999年にクルド語のアルバムを制作すると発表したが告訴され、パリへ亡命した。他にもヨーロッパへ逃れたアーティストがいる。
クルド人の伝承には『』または『シーリーンとファラッハト』と呼ばれる悲恋物語がある。対立する一族のメムとジンという名の若い男女が恋仲になり、周囲に反対された末にメムは一族に殺害され、ジンはメムの墓の前で自殺する。詩人のはこの伝承をもとに物語を編み、クルド版の『ロミオとジュリエット』としてトルコでドラマ化された。トルコの文化観光省が初のクルド語作品の翻訳をした際には、『メムとジン』が選ばれた。
レザー・パフラヴィー時代のイランの詩人として、マハーバード出身のやがいる。ヘームンらは秘密の文学サークルで活動し、イラクからクルド語の出版物を持ち込んだ。文学サークルは(コマラ)の結成につながり、コマラが出版したクルド語の詩集はイランやイラクで人気を呼んだ。クルド人の誇りや故郷への想いを込めた内容で、文字を読める読者が読めない読者に詩を語ることでも広まっていった。マハーバード共和国が建国された際は、ヘームンとハジャールは桂冠詩人となった。共和国が崩壊すると、ヘームンは潜伏したのちにクルド科学アカデミーで文学活動を行い、イランでクルド語の文化誌を編集した。ハジャールは刑務所に収監されてから脱走し、モッラー・モスタファ・バルザーニーの蜂起に参加してKDPの機関誌の編集やラジオ放送で活動した。ハジャールの詩は各地のクルド人に理解しやすいようにクルド語のモクリー方言で書かれており、虐げられた者が抵抗する権利や、クルド人への自制と勇気を語りかける作風で支持された。
小説
クルド系トルコ人のヤシャル・ケマルはトルコ共和国の国民的作家として知られている。ヤシャル・ケマルはトルコ共和国の建国と同時期にの農村で生まれ育ち、チュクロワの口承文芸や歴史、風土を作品として表現した。ヤシャル・ケマルの作品には、トルコの口承文芸として吟遊詩人のアーシュクが詠んできた詩歌や、伝説・物語からのインスピレーションがあり、アナトリアの自然と人間の関係、正義をテーマとしている。代表作の『』(1955年)は、トルコ共和国建国後の1920年代から1930年代に農村を支配する領主に立ち向かう若者の物語で、勧善懲悪や超法規的な英雄を描いた。20数か国語に翻訳されており、ノーベル文学賞の候補にノミネートもされた。ケマルが死去した際、アフメト・ダウトオール首相は、トルコ最大のクルド系作家がクルド人問題の解決を見ずに死んだことに哀悼の意を表した。
フセイン・アーリフ(Hussein Arif)はイラク王国時代のスレイマニヤ出身で、クルド人の国家樹立をペンで支えるために創作を始めた。代表作『シャール』は、スレイマニヤのクルド人が各時代の政権に抵抗する様をテーマとした小説で、「本を読めるスレイマニヤ人のほぼ全てが読んだ」と語られるベストセラーとなった。アーリフは抵抗小説の作家として評価され、のちに政治家としても活動した。アーリフのデビュー短編『チャイ・シリーン』(1959年)は、お茶の味付けに込められた女性の愛情に気づかない男性の失敗を描いており、スレイマニヤで読み継がれている。
はクルド語で執筆した作家で、トルコからスウェーデンに亡命して活動を続けた。代表作として、トルコ軍人となったクルド人の恋愛を描いた『愛のような光 死のような闇』(1998年)がある。また、実在のクルド人を主人公として、チェルケス人との悲恋を叙事詩的な語り口で描いた『失った恋の影で』(1989年)もある。
児童文学
ジャミル・シェイクリーはクルドを舞台とした児童文学を創作している。クルディスタンでゲリラや新聞記者として働きながら、クルド人少年の視点からとらえた戦争を『白い雲』というタイトルで執筆した。ベルギーに亡命したのちに『白い雲』はオランダ語の翻訳で出版された。その後、5歳の子供を主人公にクルドの村の暮らしを描いた『ぼくの小さな村 ぼくの大すきな人たち』(1998年)など発表を続けている。
ノンフィクション
イランの難民だったはオーストラリアに向かい、マヌス島の施設に収容された。インドネシアからオーストラリアへの航海やマヌス島での体験をWhatsAppに投稿し、『』(2018年)として出版された。ブチャーニーは本書において収監体制を批判している。クルド人とISILとの戦いについては、アザド・クディ(Azad Cudi)の著書『この指がISから街を守った』(2019年)で語られている。クディはクルド人民防衛隊に志願してスナイパーとなり、コバニ包囲戦で戦った経験を持つ。
ジャーナリストのは、トルコ社会のクルド人、シリア難民、性的マイノリティなどをテーマに取材している。ドキュメンタリー番組制作の他に、著書としてクルド問題に関するインタビュー集『毒と解毒剤:クルド問題』(2006年)や、イラク出身のユダヤ人だった祖母をテーマにした『Nazê:ある移住の物語』(2011年)がある。アクタンは2022年に川口市と蕨市を訪れ、在日クルド人について取材を行っている。
作品のテーマ
抑圧
トルコ出身の女性作家であるは主にベルギーで活動しており、2015年に初のクルド語作品を発表した。作品としては短編小説集『沈黙の陰で』(2001年)や長編小説『ハラブジャからの恋人』(2009年)がある。後者はイラク軍が化学兵器を使ったハラブジャの虐殺を生き延びた人物が主人公となっている。サマンジュは改行のない文体を駆使することでも知られている。
はトルコ語で執筆をしつつ、作家としてのアイデンティティは母親がクルド語で語ってくれた物語にあるとしている。トルコで左派政党に所属して逮捕された際に警官から暴力を受け、イギリスで治療を受けながら自身を癒すためのセラピーとして作家活動を始めた。デビュー作の『北』(2009年)では、父親の死の謎を知るために北へ旅する青年の冒険を通して哲学的なテーマが表現されている。2作目の『純真な人々』(2011年)は故郷のやケンブリッジ、テヘランを舞台として国内文学賞を受賞し、3作目の『イスタンブル、イスタンブル』(2015年)では地下牢で囚人たちが語る物語が『デカメロン』のような形式で流れつつ、囚人の受ける苦難が描かれる。
はザザ人のルーツもあるクルド系作家で、『』(2017年)を発表した。トルコで法律家から政治家となったデミルタシュは国民民主主義党(HDP)の共同党首をつとめて大統領選に立候補したのち、政府や国家機関を公然と侮辱した罪状で収監されている。
ジェンダー
スザン・サマンジュの『ロジン』(2001年)では、トルコのクルド人が受ける悲劇の総体として、故郷を追われた一族、強制結婚、村落防衛隊による暴力、性暴力を受けた家族の女性に名誉殺人を行おうとする男性などが語られる。
はイラクのクルディスタン地域出身で、デンマークで執筆をしている。子供や女性の虐待、家父長制、イスラームと女性の問題などをテーマとし、デンマークの団体やアムネスティで活動をしている。シリア出身でオーストリアで活動するマリア・アッバース(ماريا عباس)は、市民運動や女性のエンパワーメント活動をへて作家兼ジャーナリストとなった。短編集『ひと束のラベンダー』(2017年)や『キナの木も裏切る』(2023年)を発表し、女性を通して紛争における暴力や抑圧を描いている。
歴史
クルド人によるクルドの歴史書として、16世紀にペルシア語で書かれた『(シャラフの書)』がある。著者のはアナトリア南東部のクルド系領主だった。『シャラフ・ナーメ』の前半はクルディスタン各地の統治者の歴史、後半はオスマン帝国とイラン、中央アジアの統治者の歴史となっている。初の総合的なクルド史であり、クルディスタン社会の貴重な史料となっている。
はシリアのコバニ出身で、クルド語の詩人をしつつ自然科学の教師として働いたのち亡命してドイツで暮らしている。詩や小説を発表し、小説は4作目までクルド語で書き、5作目以降はアラビア語で書いている。オスマン帝国の時代を舞台とした歴史小説が多く、『幸福なマルティン』(2011年)は18世紀ドイツの青年マルティンが、秘薬について書かれた書物を探し求めてオリエントを旅する。人間の幸福を求めたはずのマルティンが富を築いて堕落する様子や、マルティンの親友が語るアフリカの奴隷貿易を通して、西洋がもたらした不寛容を批判している。また、クルドの古典作品『メムとジン』の著者アフマド・ハーニーを主人公にした小説『ミールナーメ』(2008年)を発表し、『メムとジン』をアラビア語に翻訳した。
は教員として働きながら、トルコのクルド人の厳しい現実や近隣民族との歴史の重なりをテーマに執筆している。『肌に書かれた章句』(2010年)は、ギルガメシュ叙事詩に登場する人物とトルコ作家の人生が交錯する。『天国の失われた大地』(2012年)はエキンジの出身地でもあるミシュリタ村を舞台にして、3世代の故郷喪失を描いた。『夢を引き裂かれし者たち』(2015年)ではドイツに逃れた難民が、ゲリラとなった弟を探し求める。
アンソロジー
トルコのの『クルドの歴史と文化シリーズ』第15巻はクルド文学の短編アンソロジーであり、ハサン・カヤは43編のクルド文学作品をトルコ語に翻訳した。クルド社会の暮らし、伝統、感情、移住や追放の物語が収録されており、トルコの他にシリア、イラク、イラン、旧ソ連の作家の作品もある。
トルコ人の作家ムラトハン・ムンガンは、トルコ政府がクルド人に対する虐殺と同化政策を行ったデルスィムをテーマとするアンソロジー『あるデルスィムの物語』を編集した。このアンソロジーにはブルハン・ソンメズとヤウズ・エキンジの作品も収録されている。ソンメズは『先史時代の犬ども』、エキンジは『祖父の勲章』を発表した。『祖父の勲章』では、祖父を誇りにしていた主人公が、婚約者との会話からデルスィムで祖父が行ったことを想像する。シリア・クルディスタンの街で、ISILに勝利したコバニをテーマとしたアンソロジー『石に囁く物語集コバニ』(2015年)も出版された。
クルディスタンをテーマとするSF作品のアンソロジー『Kurdistan +100』(2023年)がイギリスで出版された。『+100』シリーズは重要な出来事の100年後という設定で執筆されており、『Kurdistan +100』ではマハーバード共和国建国の100年後を描いた作品が集められている。
出版、図書館、文学賞
19世紀にクルド人の民族主義思想をとなえる者によって出版物が刊行された。1898年には初のクルド人による新聞『』が発行された。オスマン語とクルド語で掲載され、エジプトのカイロで創刊したのちにヨーロッパに発行所を移しながら継続した。発行人はの息子で、編集長はミドハドの弟のアブドゥッラフマーンだった。20世紀初頭のアナトリアのクルド民族主義は、オスマン帝国内で民族として認められることを主な目標とした。しかし青年トルコ人革命後に非トルコ系の団体は閉鎖され、クルド系の雑誌も閉鎖された。第一次世界大戦でオスマン帝国が敗北するとクルド人の間に独立運動が始まった。ジェラーデト・アリーはシリアでクルドの文化活動を進め、クルド語のラテン文字表記を考案し、文法書の発行とクルド語・フランス語の雑誌『(呼びかけ)』や『ロナーヒー(灯り)』を創刊した。ジェラーデトの弟カムラーンは雑誌『ロジャー・ヌー(新しき日)』と『ステール(星)』の主筆となった。
かつてトルコでは公的な場所でのクルド語の使用や出版が禁止されていたが緩和が進み、クルド語の作品も出版ができるようになりトルコの図書館にもクルド語の書籍が所蔵されている。ヤウズ・エキンジはクルド文学の翻訳プロジェクト「イエロー・ブックス・シリーズ」を運営しており、世界各地のクルド作家の作品をクルド語とトルコ語に翻訳してトルコで出版している。第1弾はアラビア語やドイツ語の小説だった。イランではクルド語の出版が認められている。マハーバードにある詩人へームンの元自宅は改装され、文化遺産庁の文学館となった。
クルド人の難民を多数受け入れたスウェーデンでは1970年代からクルド人の雑誌出版が行われた。当初の読者はトルコからの難民でクルド語を読める者が少なかったためトルコ語で印刷され、これらの雑誌を通してクルド人としての帰属意識をもつ者も増えた。1980年にトルコでクーデターが起きたことと、スウェーデンがマイノリティ言語への出版助成を行ったことが影響して、1980年代のスウェーデンではクルド語の出版物が増えた。亡命クルド人はトルコ語やクルド語の他にスウェーデン語や英語でも執筆をした。フランスのクルド研究所の図書室には、クルド文学やクルド史に関する蔵書が一般開放されている。
イランのバーシュール出版社は、毎年の最も活動的なクルド文学作家に与える文学賞としてバーシュール文学賞を運営している。選出は22人のクルド文学作家、詩人、翻訳者、専門家が行っており、第1回はが受賞した。イランのケルマーンシャー州出身のジャリーリーヤーンは文芸やクルド語研究で活動し、小説『もしマルーチなら』、民話集『金ぴかと銀ぴか』、クルド語辞典『エンサイクロペディア・クルディカ』などを著している。
主な著作家
- (1543年 - 1603年) - 『シャラフ・ナーメ』
- (1650年 - 1707年) - 『メムとジン』
- (1903年? - 1962年)
- (1920年 - 1990年)
- (1921年 - 1986年)
- ヤシャル・ケマル(1923年? - 2015年) - 『痩せたメメッド』(1955年)
- フセイン・アーリフ(Hussein Arif)(1936年 -) - 『シャール』
- (1940年 - 2013年)
- (1953年 - 2007年) - 『愛のような光 死のような闇』(1998年)
- (1962年 -) - 『ハラブジャからの恋人』(2009年)
- ジャミル・シェイクリー(Jamil Shakely)(1962年 -)- 『ぼくの小さな村 ぼくの大すきな人々』(1998年)
- (1965年 -) - 『イスタンブル、イスタンブル』(2015年)
- (1965年 -) - 『ミールナーメ』(2008年)、『幸福なマルティン』(2011年)
- (1972年 -) - 『もしマルーチなら』(2009年)
- (1973年 -) - 『セヘルが見なかった夜明け』(2017年)
- (1979年 -) - 『天国の失われた大地』(2012年)
- (1981年 -) - 『毒と解毒剤:クルド問題』(2006年)
- (1983年 -) - 『山よりほかに友はなし』(2018年)
- (1986年 -)
脚注
注釈
- ^ カルドゥコイ人はアッシリアとアルメニアの間に暮らす好戦的な民族で、12万人の軍勢に勝利したと記録されている。
- ^ 第2代正統カリフのウマルの時代にアラブ軍がクルドと呼ばれる集団と戦った記録がある。
- ^ トルコ政府とPKKとの和平交渉が始まろうとする1993年にオザルは急死した。暗殺の疑いがあり、2012年の調査では4種類の毒物が遺体から検出された。
- ^ クルド系の出自の作家もおり、たとえば詩人のはイラン出身で母親がクルド系であり、イラン政府に対する蜂起をしてソ連時代のタジキスタンで文学者として活動した。
- ^ トルコの社会学者イスマイル・ベシクチはクルディスタンを「多国間植民地」と呼ぶ。
- ^ デングべジュをテーマとしたドキュメンタリー映画『地図になき、故郷からの声 Voices from the homeland』(2021年、中島夏樹監督)は、2021年の東京ドキュメンタリー映画祭で短編部門グランプリを受賞した。
- ^ 民謡を収集した現場の音楽学者の中には、クルド民謡とトルコ民謡の違いを理解する者もいた。M・R・ガーズィミハールはトルコ民謡と少数民族の民謡を区別している。
- ^ なお、トルコ文学で女性作家が本格的に活動するようになったのは1970年代以降とされる。
- ^ ブルハン・ソンメズやヤウズ・エキンジの作品では、神秘主義者の言葉が引用されている。
- ^ デミルタシュが共同代表だったHDPの党規では、クルド人だけではなく、抑圧・搾取・疎外された人民、女性、労働者、失業者、若者、障がい者、性的マイノリティなどのための政党だとされている。
- ^ ドストの出身地はシリアとトルコの国境近くのため、もし国境が数キロ南だったらトルコ人としてトルコ語を話していただろうと語っている。
- ^ なお、トルコの国民議会で初めて展示されたクルド語の作品は、アレクサンドル・ソルジェニーツィンの小説『イワン・デニーソヴィチの一日』のクルド語訳だった。議員のオスマン・オズチェリキの翻訳による。
- ^ 2000年までに数百点のクルド語書籍が出版されたと推計されている。
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参考文献
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- 宮下遼, 石井啓一郎『対談――ヤシャル・ケマルの文学世界』。
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- 磯部加代子『クルディスタン 囚われの故郷で――忘却の民の叫びと沈黙』。
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- 磯部加代子『メフメッド・ウズン「我がデングベジュたち」解説』。
- 岡真理『ジャン・ドスト「幸福なマルティン」解説』。
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- 山口昭彦 編『クルド人を知るための55章』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2019年。
- 石井啓一郎『ヤシャル・ケマル――クルドの血筋に生まれたトルコの「国民的文豪」のねがい』。
- 磯部加代子『灰から生まれる文学――クルド現代文学』。
- 宇野陽子『セーヴル条約からローザンヌ条約へ――クルディスタンの分断と国際関係』。
- 齋藤久美子『シャラフ・ハーン・ビドリースィー――あるクルド系地方領主の生涯』。
- 守川知子『東西両大国のはざまで――オスマン=イラン国境画定に翻弄されるクルド人』。
- 森山央朗『イスラーム史のなかのクルド――古典アラビア語文献が語るクルド』。
- 山口昭彦『ベディル・ハーン一族――クルド民族主義運動の先駆けとして』。
- 吉枝聡子『クルド語はどんな言葉か――クルド語のいま』。
関連文献
- 大村幸弘, 永田雄三, 内藤正典 編『トルコを知るための53章』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2012年。
- 『トルコ文学の多彩な系譜――ノーベル文学賞から語り物まで』。
- 『トルコにおけるエスニック・グループ――クルド人を中心に』。
- 小島剛一『トルコのもう一つの顔』中央公論新社〈中公新書〉、1991年。
- ジャミル・シェイクリー(Jamil Shakely) 著、野坂悦子 訳『ぼくの小さな村ぼくの大すきな人たち』くもん出版〈くもんの海外児童文学〉、1998年。 - 絵
- アマンジ・シャクリー(Amanj Shakely) 著、野坂悦子 訳『カワと7にんのむすこたち クルドのおはなし』福音館書店〈日本傑作絵本〉、2015年。 - おぼまこと絵
- ブルハン・ソンメズ 著、最所篤子 訳『イスタンブル、イスタンブル』小学館、2023年。(原書 Burhan Sönmez (2015), Istanbul Istanbul)
- 中川喜与志, 著、中川喜与志, 大倉幸宏, 武田歩 編『レイラ・ザーナ クルド人女性国会議員の闘い』新泉社〈クルド学叢書〉、2006年。
- ファイサル・ダール『夜を照らす暗黒--レイラ・ザーナ半生記』。
関連項目
外部リンク
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